ヨーロッパの歴史風景 中世編




西暦856年、海賊の侵寇を避ける為に聖アポリナリスの聖遺物がイタリアの古都ラヴェンナ市内に移された。


イタリアの古都ラヴェンナの初代司教だった聖アポリナリス

聖アポリナリス(サンタポリナーレ) ・・・ と言われても、日本人にはあまりなじみは無いよね。でも、イタリアの古都ラヴェンナにはその名を冠した教会が少なくとも三つはある。加えてフランク王国の王クローヴィスは聖アポリナリスに献じた教会をフランス東部ブルゴーニュ地方の街ディジョンに建立したというから、少なくともヨーロッパでは名高い人物だったみたい。

この聖アポリナリスは古代ローマ帝国時代のラヴェンナの初代司教であり、多くの人々をキリスト教に改宗させたけれども、後に迫害によってラヴェンナ郊外で殉教したとされている。といっても、彼の詳細は定かではなく、殉教した状況についても皇帝ネロの迫害においてであるとか、皇帝セプティミウス・セウェルスの頃だとか、諸説があるらしい。

イタリアの古都ラヴェンナのサンタポリナーレ・イン・クラッセ教会にあるモザイク画に描かれた聖アポリナリス

とはいえ、イタリアの古都ラヴェンナでは崇敬を集めた人物だったみたい。上の画像はモザイク画に描かれた聖アポリナリスの姿なんだけど、ラヴェンナにあるサンタポリナーレ・イン・クラッセ教会で見ることが出来るんだ。

海賊の侵寇が心配されたラヴェンナの海辺

上の画像にあるモザイク画では、緑の草地にヒツジたちや木々に囲まれている聖アポリナリスが描かれているね。でも、彼が葬られていたクラッセ地区(ラヴェンナの郊外にある)は必ずしも平穏な場所ではなかったみたい。特に9世紀半ばにおいてはね。

今でこそラヴェンナの街は内陸にあるけれども、元々は海辺にあり浅瀬や沼地に囲まれた土地だった。故に古代ローマ帝国の初代皇帝アウグストゥスはここに軍港を置いたんだそうな。そんな歴史があって、聖アポリナリスの墓地の隣に建立されたサンタポリナーレ・イン・クラッセ教会の脇には皇帝アウグストゥスの像(下の画像)が立っている。

イタリアの古都ラヴェンナのサンタポリナーレ・イン・クラッセ教会とその脇に立つ古代ローマ帝国の初代皇帝アウグストゥス像

他方で、9世紀といえば地中海では海賊が跋扈していた時代だった。パリリスボンセビリアなどをヴァイキングが略奪したこともある。他方でイスラム教徒がローマ近郊を襲い、守るキリスト教徒艦隊との間でオスティアの戦いが起こったこともある。というわけで、聖アポリナリスの聖遺物のあるクラッセ地区も海賊による侵寇が心配されていたんだ。

ラヴェンナ市内に移された聖アポリナリスの聖遺物

結局、西暦856年に聖アポリナリスの聖遺物が移されている。海辺のクラッセ地区にあるサンタポリナーレ・イン・クラッセ教会から、ラヴェンナ市内にあるサンタポリナーレ・イン・ヌオヴォ教会に移されたんだ。

イタリアの古都ラヴェンナのサンタポリナーレ・イン・ヌオヴォ教会の内部

郊外のクラッセ地区よりも内陸にあり、守りもしっかりしたラヴェンナ市内ならば安全だという当時の司教の判断だったそうな。(上の画像は聖アポリナリスが移されたサンタポリナーレ・イン・ヌオヴォ教会の内部の様子。)

イタリアの古都ラヴェンナに残る教会とモザイク画

ところで、聖アポリナリスの聖遺物が移された先のサンタポリナーレ・イン・ヌオヴォ教会なんだけど、元々は東ゴート族の王テオドリックが5世紀末に建立したアリウス派の教会だった。他方でラヴェンナ市内にあるサンタポリナーレ・イン・クラッセ教会は、テオドリック王の娘のアマラスンタ女王によって6世紀初頭に建立されたものだった。

どちらも歴史ある教会だよね。しかも、どちらの教会にも当時のモザイク画が残されているんだ。例えばこのページの冒頭に掲げた聖アポリナリスを描いたモザイク画もそうだし、下の画像に描かれた聖母子と東方三博士のモザイク画そうだね。

イタリアの古都ラヴェンナのサンタポリナーレ・イン・ヌオヴォ教会のモザイク画

その他にもイタリアの古都ラヴェンナには由緒ある教会、モザイク画、ガッラ・プラキディア廟テオドリック廟など多くの見所があるんだ。世界遺産となっているものも少なくない。訪れる価値のある街だね。

ちょいと補足。「神曲」で名高いダンテは晩年をこの街で過ごしたんだけど、ラヴェンナのモザイク画を「色彩のシンフォニー」と表現していたらしい。

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