ヨーロッパの歴史風景 近代・現代編




西暦1918年、独立のアルザス・ロレーヌ共和国が幻に終わった。(フランス)


フランス東部アルザス地方の街ストラスブールのカフェにて

フランス東部アルザス地方の街ストラスブールを旅していた時、水辺の古い家並みが素敵なプチ・フランスなどを見て歩き、ちょいとひと休みしようとカフェに入ったんだ。そこでお兄さんに注文したのが「ドゥ・カフェ・オ・レ(カフェオレを二つ)」だった。そのお兄さんの返事が「ツバイ(2杯ね)」だった。

フランス語を話すことのできない私が無理してフランス語の単語で注文したんだけど、お兄さんの返事はドイツ語だった。あるいはアレマン語なのかな。ストラスブールを含むアルザス地方の人々の多くはゲルマン系のアレマン人の血をひいているらしい。今のアルザス地方はフランス領なんだけど、そんなアルザス地方の住民の3割ほどの人はアレマン語(ドイツ語の方言)を話すんだそうな。

そんなアルザス地方は、長い歴史の中で、ドイツに帰属したり、フランスに帰属したりを繰り返してきたんだ。そして今はフランス領なんだけどね。

ドイツの首都ベルリンに立つ普仏戦争の戦勝記念塔

上の画像はドイツの首都ベルリンを走るバスの中から撮影した戦勝記念塔なんだけど、普仏戦争の勝利を記念して立てられたんだそうな。勝ったプロシアを中心としたドイツ帝国が成立し、パリ近郊のヴェルサイユ宮殿でドイツ皇帝が戴冠した。そしてアルザス地方とロレーヌ地方の一部は、フランスからドイツ帝国に割譲されたんだ。

ドイツ帝国の崩壊と幻のアルザス・ロレーヌ共和国

それから五十年近くが過ぎた西暦1918年。長引く第一次世界大戦におけるドイツの敗色も濃くなる中で海軍の反乱が革命の引き金となり、ドイツ皇帝が退位してドイツ帝国が崩壊したのが11月だった。

そんな状況でアルザス地方の中心都市ストラスブールの市長となったジャック・ペロットはフランス共和国への復帰を宣言した。ところが反乱を起こした海軍の水兵たちもストラスブールで兵士と労働者の評議会を作り、独立したアルザス・ロレーヌ共和国を宣言したんだ。

フランス東部アルザス地方の街ストラスブールにあるクレベール広場のクリスマスの風景

上の画像はストラスブール市内にあるクレベール広場のクリスマス頃の様子(サイトの読者の Kaoringo さんから頂戴した画像)なんだけど、この広場の周辺でドイツ派、フランス派、独立派が各々の主張を行っていた。

アルザス地方に近づくフランス軍

ストラスブールがそんな混乱した状況に陥っていた一方で、フランス軍がアルザス地方に近づきつつあった。

フランス東部アルザス地方の街コルマールの旧市街

11月18日にはフランス軍部隊はアルザス地方の街コルマールに入っている。(上の画像はコルマールの旧市街の風景。)

11月9日にドイツ帝国が崩壊し、11月10日に急進派が独立のアルザス・ロレーヌ共和国を宣言してから数日後のことだった。

フランスに復帰したアルザス地方

フランス軍がアルザス地方の中心都市ストラスブールに入ったのは西暦1918年11月21日のことだった。独立を主張していた兵士と労働者の評議会がストラスブール大聖堂の尖塔(下の画像)に掲げた赤旗が下ろされ、フランスの三色旗が掲げられた。

フランス東部アルザス地方の街ストラスブールにあるストラスブール大聖堂の尖塔を見上げた

ドイツでもなく、フランスでもなく、独立を求めた急進派のアルザス・ロレーヌ共和国は、こうして10日間あまりで幻と消えてしまった。フランス軍部隊はアルザス地方に駐留し、西暦1919年にパリ郊外のヴェルサイユ宮殿で締結されたヴェルサイユ条約はアルザス地方のフランス復帰を認めたんだ。

アメリカのウィルソン大統領が固執し、国際連盟が各地域に認めた帰属を巡る住民投票は、アルザス地方において行われることはなかった。住民投票が行われてもアルザス地方のフランス復帰ということは揺るがなかったかもしれない。でも、住民投票が行われなかったことは、手続きに関して惜しまれる点だよね。

その後、第二次世界大戦においてもアルザス地方はドイツ軍に占領されている。そんなアルザス地方の人々にとって希望の灯火となったのは、西暦1952年にストラスブールに欧州議会が設置されたことかもしれないね。欧州が統合され、ヨーロッパに平和が確立され、アルザス地方が二度と戦火に巻き込まれない未来への希望の一歩になるかな。

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