ヨーロッパの歴史風景 中世編




西暦990年、カンタベリー大司教シゲリックがフランチジェーナ街道を歩いてイタリアのローマに赴いた。


カンタベリーからローマへ向かった大司教シゲリック

10世紀後半、イングランド南西部にあるグラストンベリー修道院(伝説ではアーサー王のお墓があったとか)で学んでいた人々の中に、シゲリックという修道士がいた。西暦975年、修道士シゲリックはイングランド南部にあるイギリスのキリスト教の中心地カンタベリー聖アウグスティヌス修道院の修道院長になっている。

西暦985年には彼はラムズベリーの司教となり、更に西暦990年にはとうとうカンタベリー大司教となったんだそうな。(下の画像はイングランド南部にあるカンタベリーの大聖堂の様子。)

イギリスのキリスト教の中心となっているカンタベリ大聖堂

大司教シゲリックはカンタベリーを出発し、ドーバーから海を渡り、フランス、スイスを経てローマに赴いている。彼が歩いたカンタベリーからローマに至る道がフランチジェーナ街道(フランスからの道)なんだそうな。

フランチジェーナ街道の中継地だったサン・ジミニャーノ

カンタベリー大司教シゲリックが歩いたフランチジェーナ街道は、中世ヨーロッパの重要な街道だった。その街道は8世紀頃から記録に登場している。その総延長は 1,700kmほど。一日に 20kmほどを歩き、80日あまりでローマに至ったそうな。

中世イタリアの塔の街サン・ジミニャーノの風景

そんなフランチジェーナ街道の重要な中継地の一つが、中世イタリアの塔の街サン・ジミニャーノ(上の画像)だった。標高 324mの丘の上に林立する塔は街道を歩く旅人たちの目印にもなったかな。他方で街道のおかげでサン・ジミニャーノの街は巡礼が訪れ、更には交易も活発になり、繁栄したんだそうな。

シエナも経由したフランチジェーナ街道

塔の街サン・ジミニャーノを出て南下するフランチジェーナ街道の次の大きな中継地がシエナだった。サン・ジミニャーノはサフランや白ワインの取引で栄えたんだけど、シエナは金融や羊毛取引の街だった。(下の画像はシエナのプブリコ宮殿のテラスから眺めたトスカナの田園風景。)

イタリアの街シエナのプブリコ宮殿のテラスから眺めたトスカナ地方の田園風景

街道の街として多くの巡礼や商人たちでにぎわったサン・ジミニャーノやシエナなんだけど、14世紀後半には著しく衰退している。西暦1347年にフランス南部プロヴァンス地方港町マルセイユに上陸した黒死病(ペスト)がイタリアをも襲い、どちらの街も人口の半分を失ったんだそうな。

西暦1353年にはサン・ジミニャーノはフィレンツェに従属している。西暦1555年にはシエナはフィレンツェによって征服されている。どちらも黒死病(ペスト)による衰退から回復できなかったらしい。

フランチジェーナ街道の終点はローマ

中世ヨーロッパの大動脈だったフランチジェーナ街道の終点はローマだった。特に多くの巡礼たちが目指したのは、ローマのヴァティカンにあるサン・ピエトロ大聖堂だった。(下の画像は今のサン・ピエトロ大聖堂の中にあるベルニーニによるバルダッキーノの様子。中世においては今の大聖堂も完成していないし、ベルニーニも生まれていないけど。)

イタリアの首都ローマのヴァティカンにあるサン・ピエトロ大聖堂の内部とベルニーニによるブロンズのバルダッキーノ(天蓋)

巡礼たちと同様に10世紀末のカンタベリー大司教シゲリックもローマのヴァティカンにやって来た。そこで彼は教皇から大司教の肩衣を授けられたんだそうな。

中世にはフランチジェーナ街道を歩いてローマまで行った人は多かったんだろうね。その後は廃れてしまい、街道を歩く人もいなくなった ・・・ と思ったんだけど、そうでもないみたい。人数は少なくなっているけど、今でもフランチジェーナ街道を歩いてローマに巡礼に訪れる人はいるらしいよ。

カンタベリーからドーバー海峡を渡り、フランス、スイス、イタリアを歩いてローマに至る道。私の場合には、美味しいものを食べて各地のワインを飲み歩く酒神バッカスに捧げる巡礼の旅になってしまいそうだけど ・・・ 。

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