ヨーロッパの歴史風景 近世編




西暦1730年頃、イギリス国王ジョージ2世が首相サー・ロバート・ウォルポールにダウニング街10番地を与えた。


イギリス首相官邸はロンドンのダウニング街10番地

イギリスの首相官邸があるダウニング街の標識(ロンドン) イギリスの首都ロンドンで首相官邸といえば、誰もが「ダウニング街10番地」という地名が頭に浮かぶよね。右の画像に写っているのが、そのダウニング街の標識なんだ。

このダウニング街があるのは、ロンドンの西の中心地ウェストミンスター地区の中。ウェストミンスター寺院ビッグ・ベンや国会議事堂などの近くなんだ。

花壇の美しいセント・ジェームズ・パークバッキンガム宮殿からも近いから、「ついでに」見に行くこともできる。

「ダウニング街」以前の歴史

ついつい観光案内になっちゃったけど、このサイトは「歴史」をテーマにしているんだから、「ダウニング街」の歴史も書いておこうかな。

そもそも今のダウニング街のあるあたりは、テムズ川の支流に浮かぶ島だったらしい。イタリアのローマから発して、やがてブリタニア(今のイギリス)に進出した古代ローマ帝国は、この島に砦を築いた。

やがてアングロ・サクソン人の時代も終わり近くなった11世紀前半、ノルマン系のクヌート王はこの島に王宮を築いた。そしてアングロ・サクソン系最後の王となったエドワード懺悔王やノルマン朝初代のウィリアム1世征服王の時代にも、この島がイングランド統治の中心だった。

その後、この界隈はアビンドン修道院の所領となった。今の首相官邸のあるダウニング街10番地には、修道院のビール醸造所があったらしいよ。

西暦1581年、ダウニング街10番地のあたりには、サー・トーマス・ナイヴェットという人物が住んでいた。その土地を彼に与えたのは、エリザベス女王(1世)だった。彼はエリザベス1世の気に入りの家臣だったらしい。

1604年に彼にサーの称号を与えたのは、エリザベス1世の後にイングランド王となったジェームズ1世だった。そんなサー・トーマス・ネイヴェットは1622年に亡くなっている。(ついでながら、彼の姪の息子の甥が、あの清教徒革命で有名なオリヴァー・クロムウェルなんだそうな。)

サー・ジョージ・ダウニングとダウニング街

話が長くなって申し訳ないけど、次に登場してくるのはサー・ジョージ・ダウニングという人物。もう想像できるだろうけど、ダウニング街ととってもつながりの深い人物なんだ。

ジョージ・ダウニング氏はニュー・イングランド(今のアメリカ東部)で育ち、設立間もないハーヴァードの卒業生だ。清教徒革命の頃にイギリスに戻ってきた彼は、1650年代にはオリヴァー・クロムウェルの部下になっていた。

やがて1658年にオリヴァー・クロムウェルが亡くなり、息子のリチャード・クロムウェルが跡を継いだ。しかし、サー・ジョージ・ダウニングはリチャードを見限り、スチュワート朝のチャールズ2世の側に立ったんだ。

そして王政復古。スチュワート家のチャールズ2世がイギリスの王位を得た。もちろん、早くからチャールズ2世を支持していたサー・ジョージ・ダウニングは、革命と王政復古という時代の波を乗り切ったわけだ。

時が流れて西暦1682年、サー・ジョージ・ダウニングが今のダウニング街のあたりの土地を買い取った。彼はダウニング街を作り、その両側に15軒の家を建てたんだ。ちなみに今のダウニング街10番地は、当時は5番地だった。(10番地になったのは1779年のこと。)

イギリス首相官邸ダウニング街10番地

それから約50年が経った1730年代、イギリス国王ジョージ2世は、当時の首相(「首相」という呼称は無かったけど)サー・ロバート・ウォルポールにダウニング街10番地の土地を与えた。

そのウォルポール(実質的に初代イギリス首相)は、ダウニング街10番地を自分の私有物とはせず、首相官邸とするように国王に説き、ジョージ2世もそれを認めた。それが、イギリスの首相官邸としてのダウニング街10番地の始まりというわけだ。

イギリス首相官邸のあるダウニング街10番地前の鉄格子と警官(ロンドン)

上の画像は現在のダウニング街の様子。通りの出入り口には鉄格子があり、警官が警備している。一般人はダウニング街10番地には近づけないわけだ。

ついでに、正式にはダウニング街10番地は、イギリスの首相官邸ではなくて、「 First Lord of the Treasury 」の官邸なんだそうな。今でも10番地の郵便受けには、そう書いてあるらしいよ。

その後のダウニング街10番地

西暦1828年、首相官邸の隣のダウニング街11番地が大蔵大臣の官邸となった。1860年代には、首相官邸の向かいに外務省の建物が建てられた。

19世紀末、首相官邸に電灯がつけられ、電話も設置された。そして1937年、ダウニング街10番地の首相官邸にセントラル・ヒーティングの設備が設けられたんだそうな。

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