ヨーロッパの歴史風景 近世編




西暦1716年、イタリアを代表する赤ワインであるキャンティの生産地域の線引きが行われた。


キャンティのワイン生産地域の線引き

ワインを好きな人ならば、下の画像にあるボトルを眼にしたことがあるかもしれないね。イタリアを代表する赤ワインの一つであるキャンティなんだけど、ずんぐりしたビンが藁のバスケットに入っているのはキャンティの典型的なボトルなんだそうな。(但し、今はもっとスマートなボトルが多くなっているけど ・・・ 。)

イタリアを代表する赤ワインであるキャンティの典型的な姿

キャンティのワインは、イタリアのトスカナ地方のブドウ畑で収獲されたブドウの実から醸造される。といっても、そのあたりのブドウ畑ならばどこでも良いというわけじゃない。「キャンティ」を称することのできるワインの原料となるブドウを産み出す畑の範囲はきっちりと決められているんだ。

その最初の線引きが行われたのが、西暦1716年のこと。当時のトスカナ大公であるメディチ家のコシモ3世の勅令によって定められたんだそうな。

キャンティのワイン生産地域の中核

トスカナ地方では古代エトルリア人の時代からワイン用のブドウが栽培されていた。その後、西ローマ帝国の滅亡後も盛んにワインが生産され、13世紀後半にはキャンティのワインを取り扱うワイン商人のギルドフィレンツェで結成されたらしい。

そんなキャンティのワイン作りの中核となっていたのが、ガイオーレ、ラッダ、カステリーナという三つの村だった。その三つの村は、キャンティ同盟を結成してワインを作り、フィレンツェの商人たちとワイン取引の交渉を行っていたんだそうな。(下の画像はそんな三つの村の一つであるガイオーレで生産されたキャンティ・クラシコ・リゼルヴァのエチケット。)

イタリアを代表する赤ワインであるキャンティの中でもガイオーレ産のキャンティ・クラシコ・リゼルヴァのエチケット

西暦1716年のトスカナ大公コシモ3世による線引きは、そんな三つの村を中核としつつもそれをわずかに広げた範囲をキャンティのワインの生産地域として定めたものだったそうな。

拡大されたキャンティのワイン生産地域

それから200年あまりが経った西暦1932年、イタリア政府はキャンティの生産地域を更に広げている。例えば、下の画像は、その20世紀前半の拡大の際にキャンティのワイン生産地域に含まれたコッリ・セネシ地区で生産されたキャンティのエチケットなんだ。そのエチケットには、「キャンティ・コッリ・セネシ」と記されている。

イタリアを代表する赤ワインであるキャンティの中でもキャンティ・コッリ・セネシのエチケット

他方で18世紀前半にトスカナ大公に認められたキャンティ生産地域なんだけど、「キャンティ・クラシコ」と称するワイン生産地域(フィレンツェとシエナの間にある)とされている。但し、厳密には「キャンティ・クラシコ」地区はトスカナ大公によるキャンティ生産地域よりも広いんだけどね。

なお、通常のキャンティ、キャンティ・クラシコ、キャンティ・クラシコ・レゼルヴァなどの呼称は、ブドウ畑の所在だけで定められるわけじゃない。多くの条件を充たすことが求められている。例えばワインの熟成の長さも重要な条件の一つになっている。

通常のキャンティやキャンティ・コッリ・セネシは収獲の翌年の3月から販売が許されるが、キャンティ・クラシコは収獲の翌年の10月まで熟成を求められる。キャンティ・クラシコ・リゼルヴァはワイン生産から少なくとも 27ヶ月の熟成が条件とされているんだそうな。

キャンティのワインの上をいくブルネッロ・ディ・モンタルチーノ

キャンティのワイン生産地域の中にありつつも、それとは別に「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」と称されるワインもある。4年以上の熟成が条件とされている。更には、「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ・リゼルヴァ」(下左のエチケット)に至っては、少なくとも 5年の熟成が要求されているらしい。

イタリアを代表する赤ワインであるキャンティの上に位置するブルネッロ・ディ・モンタルチーノ・リゼルヴァとロッソ・ディ・モンタルチーノのエチケット

長期間の熟成が条件とされているといっても、単に樽の中にワインを寝かせておけば良いというわけじゃない。そもそも優れたブドウの実が収獲でき、それを使って良いワインを作らなければ、長い期間の熟成には耐えられないんだそうな。

例えば上に書いたブルネッロ・ディ・モンタルチーノなんだけど、もし熟成に不向きなワインになった場合には、「ロッソ・ディ・モンタルチーノ」という名称のワイン(上右のエチケット)として売るらしいよ。

余談ながら、私の知人の話なんだけど、息子さんが生まれた時にその年のボジョレー・ヌーヴォーを何箱も買ったんだそうな。息子さんの成人まで寝かせておいて、一緒に飲むつもりだったらしい。でも、ボジョレー・ヌーヴォーを20年も寝かせたら、分解が進んでワインとは呼べない液体になっちゃうだろうね。ボジョレー・ヌーヴォーはとっとと飲んでしまうに限る。

他方でキャンティのワインの上物(天候に恵まれた年の凝縮度の高いブドウから作られたワイン)は30年以上もの熟成に耐えるものもあるらしいよ。まさにイタリアを代表するワインだね。

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